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東京地方裁判所 昭和48年(カ)9号 決定

再審原告

正田の婦

外一名

右訴訟代理人

山本政雄

再審被告

待寺与四馬

外四名

右再審被告ら五名訴訟代理人

斉藤龍太郎

若山保宣

再審被告

早田賢二

(旧姓長尾)

外六名

主文

1  本件再審の訴を却下する。

2  再審費用は再審原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  再審請求の趣旨

1  再審原告らを原告、再審被告らおよび長尾トラノ、長尾智世を被告とする東京地方裁判所昭和三四年(ワ)第五九二五号所有権確認・登記抹消・家屋明渡請求事件につき右当事者間において昭和四二年八月一二日成立した。

別紙一記載の条項の裁判上の和解を取り消す。

2  再審費用は再審被告らの負担とする。

二  再審被告待寺与四馬、同待寺泰子、同待寺高志、同待寺美音子、同本吉二六の答弁

主文と同旨。

三  再審被告菊地昌子、同長尾幸子、同長尾益男、同長尾道男の答弁、

右再審被告らは最初に対すべき口頭弁論期日に出頭しなかつたので、その提出した答弁書を陳述したものとみなす。右答弁書には、「主文同旨の判決を求める。」旨の記載がある。

第二  当事者の主張

一  再審原告ら(再審の事由)

1  再審原告らを原告、再審被告らおよび長尾トラノ、長尾智世を被告とする東京地方裁判所昭和三四年(ワ)第五九二五号所有権確認・登記抹消・家屋明渡請求事件につき右当事者間において、昭和四二年八月一二日、別紙一記載の条項の裁判上の和解(以下「本件和解」という)が成立した。

本件和解の当事者のうち、長尾トラノは既に昭和三七年一一月七日に死亡していたので、本件和解中長尾トラノに関する部分は、同人の長男長尾幸蔵(昭和三一年四月七日死亡)の長女である。再審被告菊地昌子、二女である同長尾幸子、長男である同長尾益男、二男である同長尾道男が相続人の資格においてなしたこととなり、また、本件和解当事者のうち長尾智世は昭和四二年九月一〇日死亡したので、同人の相続人である右再審被告ら四名が同人の和解当事者としての地位を承継した。

2  しかし、本件和解には次のとおり民事訴訟法第四二〇条第一項第八号の再審事由がある。

(一) 本件和解は、東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第五四一三号、昭和二八年(ワ)第一三〇三号事件について、昭和三〇年六月三〇日言渡された別紙二記載の判決を基礎として成立したものである。

(二) しかるに、その後、右判決は、昭和四四年九月二九日、東京高等裁判所において言渡された別紙三記載の判決(同裁判所昭和三〇年(ネ)第一三九一号、同三三年(ネ)第二九二号事件)で変更され、右東京高等裁判所の判決は、昭和四八年二月一三日最高裁判所第三小法廷で言渡された上告棄却の判決(同裁判所昭和四五年(オ)第七〇号事件)で確定した。

3  再審原告正田吉信は昭和四八年九月四日、右2の(二)の事実を知り、再審原告正田の婦は聾であるが、筆談による会話は可能であるので、右同日、右2の(二)の事実を知つた。

4  よつて再審原告らは本件和解の取消を請求する。

二  再審被告待寺与四馬、同待寺泰子、同待寺高志、待寺美音子、同本吉二六(再審原告ら主張事実に対する認否)。

再審原告ら主張事実中、12の(一)、(二)の事実および3の事実のうち再審原告正田の婦が聾であるが筆談による会話が可能であることはいずれも認めるが、2の(二)の第一審判決変更の範囲、3のその余の事実および本件和解に再審原告ら主張の再審事由が存するとの点は争う。

1  民事訴訟法第四二〇条第一項第八号は裁判上の和解に対する再審の訴には適用がない。すなわち、右規定は判決の判断の資料となつた裁判が覆えされることにより、紛争の統一的解決が阻害されることを防止することを目的とした再審事由であり、あくまで判決を下す主体たる裁判所の判断に関する規定である。

ところが、裁判上の和解は、裁判所の関与こそあれ、本質的には当事者の互譲によつて成立するものであり、判決とは本質を異にする。従つて、判決における判断の調整を目的とする民事訴訟法第四二〇条第一項第八号は裁判上の和解にはこれを適用する余地はない。

2  仮りに右同号が裁判上の和解に適用があるとしても、本件は、基礎となつた判決が変更された場合に該当しない。すなわち、再審原告ら主張の別件訴訟の判決は、訴外鈴木寅二を原告とし、再審原告正田の婦および再審原告正田吉信の亡父正田十吉および長屋幸蔵、長尾トラノ、再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同待寺与四馬を共同被告とするものであり、右訴訟は通常共同訴訟であるから、再審原告らと右鈴木および右訴訟のその余の被告ら、と右鈴木との間の訴訟関係は法律上全く別個であり、相互に判決の効力が及ばないものである。

本件和解は、別件訴訟の第一審において敗訴した再審原告らおよび右訴訟のその余の被告らが東京高等裁判所に控訴した後、(同裁判所昭和三〇年(ネ)第一三九一号・第一四一三号事件)、昭和四二年七月一九日、再審原告らのみが右控訴(右第一四一三号事件)を取り下げ、その結果確定した第一審判決を前提とし、それに基づいて成立したものであるところ、その後、控訴審で前記第一審判決を変更する判決が言渡され、確定したものであるが、右判決は鈴木寅二と残余の控訴人らに関するものであるから、再審原告らが控訴を取り下げて確定した第一審判決を変更する効力を有するものではないことは前述したところに照らし明らかである。従つて、和解の基礎となつた判決が、変更された場合には該当しないのであるから、再審原告らの民事訴訟法第四二〇条第一項第八号に依拠する主張は失当である。

三  再審被告菊地昌子、同長尾幸子、同長尾益男、同長尾道男(再審原告ら主張事実に対する認否)

右再審被告らが陳述したものとみなす前記答弁書には、「再審原告ら主張事実中、本件和解成立の事実は認めるが、その余の事実は否認する。」旨の記載がある。

第三  再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同折橋勇治は、いずれも適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

第四  証拠〈省略〉

理由

一弁論の全趣旨によれば、再審原告らは再審被告および長尾トラノ、長尾智世を相手どつて東京地方裁判所に対し、「別紙一記載の和解条項添付目録(イ)ないし(ト)記載の土地建物(以下「本件物件」という。また、特にその中の特定物件を指称するときは符号のみを示す。)および(チ)神奈川県三浦郡葉山町一色字前田一一二二番地家屋番号四四番の六木造亜鉛葺平家建物置建坪六坪一合二勺(20.23平方米)、(リ)同所同字一一二二番地家屋番号四四番の七木造亜鉛葺車庫建坪九坪(29.75平方米)(以下「本件(チ)(リ)建物」という。)は再審原告らの所有である。」として、本件物件および本件(チ)(リ)物件が再審原告らの所有であることの確認を求めるとともに、再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同菊地昌子、同長尾幸子、同長尾益男、同長尾道男および長尾トラノ、長尾智世に対し、(ヘ)(ト)を除く本件物件につき長尾林松名義でなされた所有権移転仮登記、抵当権設定登記(登記の日はいずれも昭和二七年三月二四日)の、再審被告待寺与四馬に対し、(ヘ)(ト)を除く本件物件につき同被告名義でなされた前記長尾林松の仮登記上の権利および抵当権移転付記登記、右仮登記に基づく所有権移転登記(登記の日はいずれも昭和二七年六月一一日)、本件(ヘ)(ト)物件につき同被告名義でなされた所有権移転仮登記、抵当権設定登記(登記の日はいずれも昭和二七年三月二四日)、右仮登記に基づく所有権移転仮登記(登記の日は昭和二七年六月一一日)の、再審被告折橋勇治に対し、本件物件につき同被告名義でなされた所有権移転仮登記、抵当権設定登記、賃借権設定仮登記(登記の日はいずれも昭和三一年一二月一三日)、本件(ヘ)(ト)物件につき同被告名義でなされた所有権移転登記(登記の日は昭和三二年一〇月一二日)の、再審被告本吉二六に対し、本件物件につき同被告名義でなされた所有権移転請求仮登記(登記の日は昭和三二年七月一五日)の各抹消登記手続をそれぞれ請求し、かつ再審被告待寺与四馬、同待寺泰子、同待寺高志、同待寺美音子に対し、本件物件および本件(チ)(リ)物件の明渡を求める訴を提起したこと(東京地方裁判所昭和三四年(ワ)第五九二五号事件。以下「原訴訟」という。)を認めることができる。そして、原訴訟において、当事者間において昭和四二年八月一二日本件和解が成立したことは再審原告らと再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同折橋勇治を除くその余の再審被告らとの間において争いがなく、再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同折橋勇治は民事訴訟法第一四〇条三項により本件和解成立の事実を自白したものとみなす。

ところで、本件和解の当事者のうち長尾トラノが既に昭和三七年一一月七日に死亡していたので、本件和解中長尾トラノに関する部分は、同人の長男長尾幸蔵(昭和三一年四月七日死亡)の長女である再審被告菊地昌子、二女である同長尾幸子、長男である同長尾益男、二男である同長尾道男が相続人の資格においてなしたこととなることは、再審被告菊地昌子、同長尾幸子、同長尾益男、同長尾道男において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そして、〈証拠〉によれば、本件和解の当事者の一人長尾智世は昭和四二年九月一〇日死亡したこと、その相続人は再審被告菊地昌子、同長尾幸子、同長尾益男、同長尾道男であることが認められるから、長尾智世の和解当事者としての地位は右再審被告らが承継したものとすべきである。

二ところで、本件和解調書には、和解条項第一項として「原告は被告らに対し昭和四二年七月一九日東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第一、四一三号控訴事件の控訴取下し、昭和三〇年六月三〇日東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第五、四一三号事件につき言渡された判決確定により原告らが別紙物件目録記載の不動産に対する所有権がないことを確認する。」と記載されており、再審原告らが本件物件につき所有権を有しないことを確認したのは、別件訴訟の第一審判決の判断に服することとしたことが一つの動機をなすことが窺われるので、次に別件訴訟の内容とその推移を検討する。

弁論の全趣旨により各原本の存在を認めることができ、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  本件物件はもと再審原告正田の婦および正田十吉(再審原告正田吉信の亡父)の所有であつたが、訴外鈴木寅二は「再審原告正田の婦および正田十吉に対する貸金債権を担保するため、昭和二四年八月一日右両名との間で本件物件(但し、(ヘ)(ト)を除く。)を目的とする代物弁済予約を締結し、昭和二五年六月三日停止条件付代物弁済契約を原告とする所有権移転仮登記を経由したが、再審被告正田の婦および正田十吉が債務を履行しないので、鈴木寅二は昭和二五年七月二四日代物弁済予約完結の意思表示をし、これにより本件物件(但し、(ヘ)(ト)を除く。)の所有権を取得した。」と主張し、東京地方裁判所に対し、別紙二2当事者欄に被告と表示した者を相手どつて訴を提起し、このうち再審原告正田の婦および正田十吉に対しては、前記物件の所有権移転登記手続を求めるとともに、再審原告正田の婦および正田十吉名義の登記を前提として前記物件につき所有権移転仮登記、抵当権設定登記を経由した長尾林松(この登記は前記一で認定したと同一の登記である。)の相続人である長尾幸蔵、長尾トラノおよび再審被告早田賢二、同脇坂かほるに対し、右各登記の抹消登記手続、前記長尾林松の仮登記上の権利および抵当権移転付記登記、右仮登記に基づく所有権移転登記を経由した再審被告待寺与四馬(この登記は前記一で認定したと同一の登記である。)に対し、右各登記の抹消登記手続ならびに前記物件の明渡等を請求し(東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第五四一三号事件)、これに対し、再審原告正田の婦および正田十吉は鈴木寅二の前記主張を争い、反訴を提起して鈴木寅二名義の前記仮登記等の抹消登記手続を求めた(同裁判所昭和二八年(ワ)第一三〇三号事件)(なお、この別件訴訟の目的物件の一つである別紙二の(注)の冒頭に掲記した建物は、その所在地番、家屋番号、種類、構造などが本件(イ)物件のそれと照応するので、本件(イ)物件と同一性ある建物と認める。)。

2  東京地方裁判所は右別件訴訟につき再審理した結果、鈴木寅二の前記主張事実を肯認し、昭和三〇年六月三〇日再審原告らおよび正田十吉に対し鈴木寅二に対する所有権移転登記手続を命じ、また長尾幸蔵、同トラノ、再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同待寺与四馬に対して抹消登記手続を命ずるなど別紙二3のような判決を言渡した。

3  敗訴した再審原告正田の婦および正田十吉ならびに長尾幸蔵、同トラノ、再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同待寺与四馬は東京高等裁判所に控訴し(長尾幸蔵、同トラノ、再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同待寺与四馬の控訴は同裁判所昭和三〇年(ネ)第一三九一号事件、再審原告正田の婦および正田十吉の控訴は同裁判所同年(ネ)第一四一三号事件)、鈴木寅二も附帯控訴を提起したが(同裁判所昭和三三年(ネ)第二九二号事件)、正田十吉は控訴提起後死亡し、再審原告正田吉信が訴訟を承継した。しかし、昭和四二年七月一九日に至り、再審原告らのみは控訴を取り下げるとともに、当時既に東京地方裁判所に係属していた本件原訴訟において本件和解を成立させた。

4  一方、長尾幸蔵、同トラノ、再審被告早田賢二、同脇坂かほる、同待寺与四馬関係の控訴審では、第一審判決の認定とは逆に再審原告正田の婦および正田十吉と右鈴木寅二間の金銭貸借、代物弁済予約の成立を否定し、再審被告待寺与四馬が再審原告正田の婦および正田十吉から本件物件(但し、(ヘ)(ト)物件を除く。)を買受け、その代金は売買当事者の合意により長尾林松の再審原告正田の婦および正田十吉に対する債権を代位弁済した分を含めて全額完済し、長尾林松から右物件に対する仮登記上の権利および抵当権移転の附記登記を受け、再審原告正田の婦および正田十吉からは右仮登記に基づく所有権移転登記を受けるとともに、右物件の引渡を受けたとの事実を認定して、第一審判決を取り消し、鈴木寅二の請求を棄却するなど別紙三3のような判決を言渡し、昭和四八年二月一三日最高裁判所第三小法廷の上告棄却の判決(同裁判所昭和四五年(オ)第七〇号事件)により右控訴審判決は確定した。

以上の認定を左右するに足る証拠はない(別件訴訟において別紙二記載の第一審判決が言渡され、右判決が東京高等裁判所の別紙三記載の判決(同裁判所昭和三〇年(ネ)第一三九一号、同三三年(ネ)第二九二号事件)により変更されたことは、変更の範囲の点を除き再審原告らを再審被告待寺与四馬、同待寺泰子、同待寺高志、同待寺美音子、同本吉二六との間において争いがない。)。

三右の事実に基づき再審事由につき検討する。

民事訴訟法第四二〇条第一項第八号は、確定判決の基礎となつた民事もしくは刑事の判決その他の裁判または行政処分が、後の裁判または行政処分により変更された場合は当該確定判決に対する再審事由となる旨規定するが、ここで民事もしくは刑事の判決その他の裁判または行政処分が確定判決の基礎となるというのは、民事もしくは刑事の判決その他の裁判または行政処分の法的効力が再審の対象となる判決の訴訟当事者に及び、裁判所の判断を拘束する場合のみならず、それらの裁判または処分が再審の対象となる判決をした裁判所において事実認定の一資料として採用されている場合も含むものとされる。

けだし、再審の対象となる判決をした裁判所においてある裁判または処分を事実認定の一資料として採用した後になつて、その裁判または処分が変更され、その結果として当該事実認定に影響を及ぼし、当該判決の結論も異なりうる可能性が生じた場合には、再度審判をやり直して、同一または関連する紛争につきできるだけ統一的にして公正な紛争解決をはかることを至当とするからである。従つて右第八号の再審事由は、あくまで裁判所の判断の是正を目的としているものであることは明らかである。

ところで、裁判上の和解は、それが調書に記載されたときは確定別決と同一の効力を有するものであるが(民事訴訟法第二〇三条)、右の効力は当事者の自由な意思によつて合意された事項につき特に法律が賦与したものにほかならない。右合意にあたり、和解の当事者は、自分なりに事件に関して事実を認定し、法律的判断を下し、訴訟の帰趨に対する見込みや終局判決に至るまで訴訟を維持することの是非など特段の事情を考慮して相手方と折衝し、和解条項形成の作業を進めるものであるが、それらはあくまでも当事者がその責任において認定し、判断し、考慮するものであり、裁判所の認定判断、考慮ではない。もとより裁判所はその紛争解決の職責に鑑み、当事者の認定、判断として表明されるところが著るしく不合理で事件の形相に背馳することなどが明らかに看取された場合には修正的助言をすることなどもあるが、このことによつて当事者がその責任において前叙のことがらを認定、判断、考慮するという事柄の本質はいささかも変るものではない。以上のとおり、裁判上の和解は、判決が裁判所の事実認定および法律上の判断そのものを内容とし、それらの総合が主文に結実するのと異り、裁判所による事実の認定および法律上の判断という作用は何ら存在しないのであるからその点の矛盾を是正する必要もなければ、またそれは可能でもない。

よつて一般的に裁判上の和解に再審の訴に関する民事訴訟法の規定が準用されるか否かは別論として、少なくとも民事訴訟法第四二〇条第一項第八号の再審事由に関しては、これを裁判上の和解に準用する余地はないものと解するのが相当である。

本件において、再審原告らが本件原訴訟において本件和解を成立させた縁由の全体はこれを証拠上知る由もないが、和解条項の行文上別件訴訟の第一審判決の判断に服することとしたことが一つの動機をなすものであつたことは前認定のとおりである。しかし、右第一審判決に服するという再審原告らの意思決定は、再審原告らにおいて右第一審判決の認定(鈴木寅二が(ヘ)(ト)を除く本件物件の代物弁済予約の完結によつて右物件の所有権を取得した旨の認定)を正当なものと信じたことによるにせよ、ありうる認定であるという程度に考えたことによるにせよ、所詮は再審原告ら自らのなした認定、判断に基づく意思決定なのであつて、この間に裁判所の認定、判断がかかわる余地がないことは先に説示したとおりである。

再審原告らは前記第一審判決の認定事実について東京高等裁判決の判決が異なる認定をしたこと(これは判決の変更には当らない。すなわち、前記第一審判決に対し控訴を申し立てた当事者のうち再審原告らは控訴を取り下げたので、再審原告らと鈴木寅二との間において右第一審判決は確定し、法律上控訴審においてこれが変更されることはない。前記東京高等裁判所の判決は残余の控訴人らと鈴木寅二との間についてなされたものであり、その中で鈴木寅二が前記物件の代物弁済予約の完結によつてその所有権を取得したかどうかという争点に関し第一審判決と異る認定をしたというだけのことである。)を重視するもののようであるが、そのことに照らし本件和解に踏み切つた再審原告らの思考過程に民法上の意思の欠缺あるいは意思表示の瑕疵と目すべきものがあつたというのでなく、本件和解に民事訴訟法第四二〇条第一項第八号の再審事由があると主張するのは的外れとするほかはない。

よつて再審原告らの本訴請求は不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(蕪山厳 井上孝一 慶田康男)

別紙一  和解条項

一 原告は被告らに対し昭和四二年七月一九日東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第一、四一三号控訴事件の控訴取下し、昭和三〇年六月三〇日東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第五四一三号事件につき言渡された判決確定により原告らが別紙物件目録記載の不動産に対する所有権がないことを確認する。

二 原告の請求はこれを放棄する。

三 訴訟費用は各自弁のこと。

物件目録〈省略〉

別紙二

1 事件番号・事件名

東京地方裁判所昭和二七年(ワ)第五四一三号建物所有権移転登記請求事件、昭和二八年(ワ)第一三〇三号反訴事件

2 当事者

原告(反訴被告)鈴木寅二

被告(反訴原告)正田の婦

外一名

被告 長尾幸蔵

外四名

3 主文

(一) 被告(反訴原告)正田の婦、正田十吉は原告(反訴被告)に対し別紙目録記載物件(注)につき所有権移転登記手続をしなければならない。

(二) 被告尾長幸蔵、トラノ、賢二、かほるは別紙目録記載物件について昭和二七年三月二四日横浜地方法務局横須賀支局受付第一五〇六号で長尾林松のためなされた抵当権設定登記、同日同支局受付第一、五〇七号で長尾林松のためなされた所有権取得の仮登記の各抹消登記手続をしなければならない。

(三) 被告待寺は別紙目録物件につき昭和二七年六日一一日横浜地方法務局横須賀支局受付第三、九七八号でなされた抵当権取得登記、同日同支局受付第三、九七九号でなされた所有権取得の附記仮登記、同日同支局受付第三、九八〇号でなされた所有権取得登記の各抹消登記手続をしなければならない。

(四) 被告待寺は原告より一、三五七、八一一円の支払を受けると同時に、別紙目録記載の物件を原告に明渡さなければならない。

(五) 被告待寺は原告に対し昭和二八年五月六日から同年一二月末日までは一月一九、六九二円四五銭、昭和二九年一月一日から同年一二月末日までは一月二一、七六一円六二銭、昭和三〇年一月一日から前項記載物件明渡しずみに至るまでは一月二二、四五九円七六銭の各割合による金員を支払わなければならない。

(六) 原告のその余の請求を棄却する。

(七) 反訴原告(被告)の反訴請求を棄却する。

(八) 本訴訴訟費用はこれを十分し、その二を原告の負担その三を被告正田の婦、正田十吉の連帯負担、その二を被告長尾幸蔵、トラノ、賢二、かほるの連帯負担、その三を被告待寺の負担とする。

反訴訴訟費用は反訴原告(被告)正田十吉の連帯負担とする。

(注)別紙目録〈省略〉には、

神奈川県三浦郡葉山町一色字前田一一二二番家屋番号第一〇九号

木造かわらぶき二階建居宅(建坪九九坪六勺、二階六一坪二合五勺)一棟

木造瓦葺平家建居宅(建坪二一坪二合五勺)一棟

および本判決別紙一の和解条項添付物件目録(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)記載の宅地が表示されている。

別紙三

1 事件番号・事件名

東京高等裁判所昭和三〇年(ネ)第一三九一号建物所有権移転登記等請求控訴事件、同三三年(ネ)第二九二号同附帯控訴事件

2 当事者

控訴人 長尾幸蔵

外三名

控訴人(附帯被控訴人)

待寺与四馬

被控訴人(附帯控訴人)

鈴木寅二

3 主文

原判決中控訴人(附帯被控訴人)らの敗訴部分を取り消す。

被控訴人(附帯控訴人)の控訴人(附帯被控訴人)らに対する各請求ならびに本件附帯控訴はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

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